アドラー心理学の子育てについて学ぶと、必ず出てくるキーワードが「褒めない」です。従来の褒める子育ては「縦の関係」を生み出し、子どもを親の評価に依存させる——そう書かれている。では、その通りに実践しよう。褒めるのではなく、「勇気づけ」をしよう。そう決めた親たちの中には、「褒めない子育て」を厳密に守ろうとする人がいます。

ところが、その結果は、期待と全く異なるものになることがあります。親に褒めてもらえなくなった子どもは、単に「親に認められていない」と感じるようになり、やる気を失うのです。「勇気づけ」(相手を信頼して応援する)のはずが、親からの反応がないと、子どもはさらに無気力になっていく。

その悩みが、AdlerHubに寄せられました。相談者は、ケンジさん(40代・父親)です。

「アドラーの本を読んで、褒めることをやめました。でも半年後、子どもは宿題も家の手伝いも何もしなくなりました。『勇気づけって、褒めないだけではダメなんですか?』」
—— ケンジさん(40代・父親)

ケンジさんが学んだ「褒めない」は、本当のアドラーの「勇気づけ」だったのでしょうか?対話を通じて、その誤解を解き明かしていきましょう。

「褒めない」は勇気づけの必要条件ではなく、単なる「関係性の変化」に過ぎない

ケンジさんが陥った罠は、「褒めない」ことだけに焦点を当てることで、「勇気づけの本質」を見失ってしまったことにあります。

アドラー心理学の「褒めない」というのは「結果に対する評価をしない」という意味です。しかし、「何も言わない」という意味ではないのです。むしろ、親が「褒める」という『縦の関係』(親が上位で一方的に評価する関係)を壊した後に、新たに築くべき関係がある。それが「感謝」なのです。

ケンジさんの場合、「褒めてはいけない」という禁止に縛られるあまり、子どもの行動に対して「何も言わない」という対応をしてしまっていたのかもしれません。

「評価」と「感謝」は、全く異なるメッセージ

対話の中で、智鶴がケンジさんに問いかけました。「子どもが宿題をしたり、家の手伝いをしたりした時、あなたは何と言ったんですか?」

ケンジさんは、その瞬間に気づきます。「何も言わないなかった。褒めてはいけないと思って」親からの声かけがない中で、子どもは何を感じたのでしょうか。「お父さんは何も言わない」「ぼくは認められていない」そう感じたのではないでしょうか。

「褒める」というのは「あなたは素晴らしい」という評価です。これは確かに、子どもを親の評価に依存させます。しかし「感謝する」というのは「あなたのおかげで、助かった」「あなたがいてくれて、嬉しい」という、親の感情の開示なのです。これは、子どもを貴重な存在として認め、同時に「親は子どもに依存していない」というメッセージも伝えます。

「縦の関係を壊す」だけでは、不十分である

さらに深い気づきが生まります。そこで智鶴は問いかけるのです。「褒めるという『縦の関係』を壊した後、あなたは子どもとどのような『横の関係』(同じ立場で協力し合う関係)を築こうとしていたんですか?」

実は、多くの親が「褒めない」ことに成功しても、その後「何も言わない親」になってしまうのです。これでは「縦の関係」を壊したのではなく、「関心を失った親」になっているのです。子どもにとっては、評価される親より、無関心な親の方が、さらに絶望的かもしれません。

アドラーが説く本当の「勇気づけ」は、「褒めない」だけでなく、「感謝と関心」が必要なのです。子どもの行動に対して「ありがとう」と伝え、「あなたの行動は、家族の役に立つ」という確信を、子ども自身の内側に育てるのです。

「家族の一員として貢献する喜び」を伝えること

ケンジさんが最終的に気づいたことは、こうです。「褒める」という親の権力は手放しても、子どもへの「関心」と「感謝」の気持ちまで手放してはいけない、ということです。

子どもが宿題をする、家の手伝いをする。その時に親がすべきことは、子どもの「プロセス」に目を向けることです。「その宿題は難しかったね」「家の手伝いをしてくれて、僕は助かった」このように、評価ではなく、親自身の感情と、子どもの行動の意味を言語化することなのです。

子どもは、その時に学びます。「自分の行動は、家族の一員としての『貢献感』(自分が役に立っていると感じる気持ち)なんだ」「親が評価するか否かではなく、自分が家族に貢献しているんだ」こうした確信が、本当の「勇気づけ」なのです。

「褒めない子育て」で大事なのは、親の権力を手放すことではなく、親の関心を「評価」から「感謝」へと変えることです。

もし今、あなたが「褒めない」ことだけに縛られていたら、ここが転機です。子どもの行動に「ありがとう」「助かった」と伝えてください。その言葉は、子どもの「ぼくは役に立ってる」という確信を育てます。

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