子育てをしていると、誰もが経験することがあります。それは「子どもに何か言う時、どう言えばいいのか」という迷いです。特にアドラー心理学を学んだ親は、こう思うかもしれません。「『勇気づけ』(相手を信頼して応援する)をしなさい」「子どもの自立を大事にしなさい」と。でも、その教えを実践しようとしたとき、何か違う反応が返ってくることがあります。

「子どもに『あなたなら、できると思うよ』と言ったとき、子どもは目を逃らしてしまいました。叱るのではなく、もっと優しく接しようと思ってのことなのに。なぜ子どもはそんな反応をするのか、わかりません。親として、何をどう変えればいいのでしょう。」
—— ハルコさん(40代・主婦)

ハルコさんは、子どもに対して誠実に接しようとしています。なのに、なぜ子どもは反発してしまうのでしょうか。その背後には、多くの親が気づかない、ある重要なポイントがあります。

「勇気づけ」の背後にあるもの

ハルコさんは、子どもに対して誠実に接しようとしています。その気持ちは本当に大切です。でも、ここで大事な問いがあります。それは「『あなたなら、できると思うよ』という言葉が、本当に子どもへの信頼から出ているのか」ということです。

多くの親は気づかずに、こんなことを思っていることがあります。「子どもに勉強をしてほしい」「良い成績を取ってほしい」「親として成功したい」。親の心の中に、そうした願いや不安があるなら、その気持ちは言葉や態度に表れるものです。子どもは親の言葉よりも、その奥底にある気持ちをもっと敏感に感じ取っているのです。

特に中学生の子どもの場合、注意が必要です。なぜなら、その時期には既に子どもの性格や価値観の基礎ができているからです。アドラー心理学では、10歳前後までが人格形成の決定的な時期だと考えられています。だからこそ、親が「今から勇気づけで変えよう」と思うことは、実は子どもに「お母さんは、ぼくの今の姿を認めていない」というメッセージを送ってしまうのです。

子どもが「嫌だ」と感じる本当の理由

ハルコさんの子どもが目を逃らしたのは、優しい言葉が嫌だからではありません。親の気持ちの奥底にある「親の期待」「親の願い」を感じたからかもしれません。つまり「お母さんは、ぼくを何か変えようとしている」「お母さんの思い通りに動いてほしいんだ」という感覚を、無意識に感じ取ったのです。

このとき大事なのは、アドラー心理学の「『課題の分離』(相手の課題はその人自身のもの、親がしてあげることではない)」という教えです。ただし、これを「子どもの勉強は子どもの課題だから、親は関わらない」という意味に受け取ってはいけません。本当の課題の分離は、「子どもの人生に対して、親の期待を押し付けないこと」を意味しているのです。

親が「何を変える」べきか

ハルコさんが子どもに対してできることは、実は2つだけです。ひとつは「親自身が、子どもへの期待を手放す」こと。もうひとつは「親が、自分の人生を大事にしている姿を見せる」ことです。

子どもの多くは、親が「自分の人生で何がしたいのか」「何に真剣に向き合っているのか」を無意識のうちに観察しています。親が子どもの人生ばかり心配し、自分の人生を生きていなければ、その親の姿から子どもが学ぶことは「親の不安や期待の重さ」だけです。逆に、親が自分の人生に真摯に向き合っていれば、子どもはそこから「人生とは何か」「自分らしく生きるとは何か」を学ぶことができるのです。

親が子どもを信じるために、親自身が「親として完璧であること」を手放す必要があります。そのとき初めて、子どもは「親に信じられている」という安心感を感じることができるのです。

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